2019年,4月11日ー.

春に浮かれがちな私は「油断大敵」とばかりにひゅーひゅーと吹きあれる冷風に凍えていた.
だが,体とは裏腹に心は温まるばかりだった.
“Tokyo Design Lab”のInspire Talksに出かける時間を設けられたのだ.

Tokyo Design Labとはなにか?

虎ノ門駅から歩くこと10分.辿り着いたのはその開催地,新虎通りCORE.

●新虎通りCOREの外観.都心に立つ広々とした建物だ.

eventbriteという日常では珍しいアプリでチケットが管理されていた.私はチケットを発行したつもりが手違いで発行できていなかったため途方に暮れていたのだが,温情により名刺の提示で許してもらえた.

イベントチケット詳細:
https://www.eventbrite.co.uk/e/rcaiis-design-lab-inspire-talks-the-core-registration-59313302685?fbclid=IwAR2mfiZpT-aMAcdk1W4Uc2skMsUEZHgezW3brcLg3ZU_V56pTD8uPu-GaG0#

今回はInspire Talksシリーズ第7回.
登壇者は鳴海 紘也さん,岡部 徹さん,ノルウェン モデさんの三人だ.

私が初めてTokyo Design Labについて知ったのは,2018年12月11日.Inspire Talksシリーズ第5回に出かけた時のことであった.きっかけは,確かFacebookからのリコメンドだったと思う.

Tokyo Design Labは,東大生産研と,ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(ロンドン)の協同プロジェクトとのことだった.

男性が女性の生理を擬似体験できる「生理マシーン」を作ったSputniko!さん(尾崎マリサさん)に注目していた私は,彼女が教員を務める東京大学生産技術研究所(以下,東大生産研)にもまた関心を抱いていた.
さらに,ロイヤル・カレッジ・オブ・アートはSputniko!さんの母校でもあった.
そんなわけで,実際のところはじめの段階において,アーティストのルーツをたどるミーハー精神が私を動かした.

●Tokyo Design Labのホームページ.研究機関のイメージを覆す,デザイナーファーストのブランディングだ.

Tokyo Design Labのミッションは以下だという.

・イノベーティブなプロトタイプの創出
・人材育成
・デザインエンジニアリング拠点の構築

詳しくは以下のウェブサイトを参照するといい.

https://www.designlab.ac/mission

有難いことに外部と接点を持ちながら進んでいく形態のプロジェクトだというわけで,トークイベントは無料で開かれている.
その第5回への参加でラボ内部の先生から直接聞いた話は,「大学と実社会の調和」についてだった.

彼らの物語の続きを観に,私は再び新虎通りにやってきた.

彼らが語ったこと

当日の講演のライブ配信動画のアーカイブがFacebookで一般公開されているので,誰でも観ることができる.よければ視聴しつつお読みいただきたい.

RCA×IIS Design Lab Inspire Talks @ THE CORE

インスパイアトーク@新虎通りCOREDESIGN ACADEMYの立ち上げを記念して、"Inspire Talks"イベントシリーズの第7回目を4月11日(木)19時、‟新虎通りCORE(東京・港区)”にて開催致します。登壇者: 鳴海 紘也 - マテリアル志向インタフェース東京大学 大学院情報理工学系研究科 川原研究室 博士学生岡部 徹- 東京大学生産技術研究所 岡部研究室 教授ノルウェン モデ - 東京大学生産技術研究所 DLX – Design Lab 特別研究員また、このイベントは森ビル、森記念財団のサポートを受けています。The RCA×IIS Tokyo Design Lab is coming to the city again!We are very excited to announce that on the 11th of April we will be holding another session of the RCA×IIS Tokyo Design Lab Inspire Talks at The Core on Shintora Dori. This event is presented by DESIGN ACADEMY, our new initiative that brings design education out of the campus and into the city.As usual, Inspire Talks will be an informal affair with three inspiring speakers from science and design talking about their work followed by casual networking party:Koya Narumi – Ph.D. student, Material-driven interfaces, Kawahara Lab, Graduate School of Information Science and Technology U-Tokyo (JP)Toru H.Okabe – Professor, Head of Okabe Lab, Institute of Industrial Science, U-Tokyo (JP)Nolwenn Maudet – Ph.D. Post Doc Researcher, DLX – Design Lab, Institute of Industrial Science, U-Tokyo (FR)This event is Kindly supported by Mori Building / The Mori Memorial Foundation.

Posted by RCA – IIS Tokyo Design Lab on Thursday, April 11, 2019

 

Tokyo Design Labについて,また彼らの行う一般向けワークショップのDesign Acadmyについての紹介が一通り行われたあと,一人目の登壇者が現れた.

鳴海 紘也さん(23:03-46:03)

彼はマテリアル志向インターフェースの研究者であり,東京大学川原研究室の博士学生だという.

ポートフォリオ:
https://narumi.me/work

彼は「紙」に動きを与える.

低温沸騰の液体で満たされたアクチュエーターを活用するのが彼の「科学」「技術」の部分であるが,彼が大切にしているのは紙がロボットになるという「デザイン」に相当する部分だ.

・紙の蝶々
・外気温が寒いと閉じる,暑いと開く,賢いパピリオン
・紙の食虫植物

そんな作品たちを次々と紹介していく.
会場は感嘆の息に包まれた.

ネット非公開の内容も明かし更に会場の温度を上げつつ,マイクは次の登壇者に渡される.

岡部 徹さん(46:20-1:09:20)

岡部教授は,東大生産研に研究室を構える研究者だ.

「もしかする未来」という展示会が記憶に新しい方は多いと思う.
「もしかする未来」は,東大生産研70周年の年に,工学とデザインを融合させて未来的製品のプロトタイプを並べた展示会だ.
インダストリアルデザイナーの山中俊治教授などと共に展示会を開催された岡部教授は,そこでご自身のチタン製品の展示を行なったという.

●もしかする未来のホームページ.開催日前後はSNSでこの絵を見ない日はなかった.

岡部教授のアイデンティティーは,「レアメタルアーティスト」.

●岡部研究室のトップ画像.一瞬でインスピレーションを与える.(拝借しています)

チタンなどの,地球上で現在精製や発掘が希少とされているレアメタルを用いて,様々な製品のプロトタイプを制作するのがスタイルだ.

プレゼン中,教授は作品を次々と紹介していく.

ー”チタン”は,あらゆる金属製品をリプレイスする.
そんな未来を見せてもらった.

私が印象的だったのは,「プロトタイプのつもりで作ったが,完成度の高いものが出来上がった」「将来的にはこれらのチタン製品を量産し,経済市場にインパクトを与える」という話だった.教授は,デザイナーであると同時に,エンジニアなのだ.

そして言わずもがな,教授のもう一つの顔は研究者だ.
チタン精錬技術.
チタンがレアメタルたる所以は,自然界から発掘される鉱物からチタンを精錬することが難しいから.
教授はその技術に,革命をもたらした.

その科学研究者的知見をもって,会場の質問に答えてゆく.
鮮やかな語り口は余韻を残しつつ,次の登壇者にバトンが移る.

ノルウェン モデさん(1:10:20-1:44:30)

最後の登壇者は,東大生産研所属のDesign Lab 特別研究員のノルウェン モデさんだ.

デザインとエンジニアリングは友達.
エンジニアリングとサイエンスは友達.
ではデザインとサイエンスの関係はなんだと思いますか?

おもむろに彼女は会場に問うた.

私たちは,サイエンスと向き合うデザインそのものの再構築をしています.

そう語りかけつつ,

・問題の立て方
・成果の評価手法

について,サイエンスとデザインの違いを説く.
「問題を発見する」のがサイエンス,「物の見方を変える」のがデザインだという.
分野を深める科学に対して,分野を作り出すのデザイン.
このように紐解いていくと,両者のコラボが見えてくる.

構想・製品・普及というストーリーを仕立てる際の協力関係だ.

そうなると,湧き上がるイマジネーションはひとつ.
私は質疑応答の時間を待った.

問い

私:
素晴らしいプレゼンありがとうございました.私は水谷健といい,企業の人間です.2年前に大学院を卒業しました.デザインラボのコンセプトは従来の大学のイメージを超えていて素晴らしいです.一方,企業の人間がこのようなコンセプトを内部で実現しようとした場合,いいアイデアはあるでしょうか?

Nolwenn Maudet(ノルウェン モデ):
OK, I think we then should talk. Because I think this is what we are trying to do, like we created this set of methods and tools within the designers as a way to start it.
(それなら私たちは喋るべきですね.なぜなら.それは私たちが挑戦しようとしていることだからです.デザイナーの間でつくったこのメソッドやツールで.)

But I think the goal is then to release this and make them useful for other people and especially for people in companies where I think this type of situation, where we have on one hand some people who are doing really like research and development like part for research.
(私たちの目標は,これを役立つ形で企業のひとびとに提供することなんです.企業の中には,研究そのもの,あるいは研究に近い形のことをやられている方がいますね.)

Let’s say and on the other hand people who are doing more the design and they tend to not talk too much to each other I think this is quite a common situation and I think maybe this is where we can help.
(また一方,お互いあまり語らず,デザインに集中している人々もいて,それは結構ありふれた光景ですよね.私が思うに,後者に対して私たちが助けられることがあると思っています.)

You know like developing this treasure hunting process as a way to bridge the two feels together and I think we are very interested in trying the pool so if you are interested as well I think you should come and talk to us after.
(この”トレジャーハンティング”のプロセスは,ふたつの異なる気持ちを繋げるための方法であり,私たちは現場での応用に強い関心を持っています.ぜひ話しましょう.)

私:
サイエンスとデザインをうまく組み合わせた製品をつくっている企業を知っていますか?

Nolwenn Maudet(ノルウェン モデ):
Within companies I don’t know if I’m the most qualified person to answer. There I know that in some universities it’s starting to happen really to have those interesting collaborations for example between biologists and designers.
(それにお答えできる準備はあまりありませんが,そのような面白いコラボレーションが起こっているのは知っています.例えば生物学者とデザイナーとか.)

I know that in MIT or some universites in France where I come from there are some people doing this and I think from there actually they then go and create their own startup, that’s very common. To be honest I’m less aware of which companies already do it but maybe miles as an answer our professor.
(MITや私が出身のフランスにある幾つかの大学ではそのような取り組みが行われていますし,彼ら自身がスタートアップになっており,それはかなり普通のことかなと思います.正直どの企業がすでに実現できているかは知りませんが,私の先生が言うようにまだ道のりは長いかもしれません.)

未来をデザインすること,そのためのサイエンス

彼らを例にとると,東大という枠組みがあり,その中に生産研があり,ひとつのプロジェクトとしてTokyo Design Labが立ち上がった.
またそれは外部にロイヤル・カレッジ・オブ・アートという彼らと共感性の高い枠組みがあり,コラボレーションがきっかけになって立ち上がった経緯がある.

私が上記のような「問い」を投げかけたのは,自由市場経済のフィールドで自律する存在になることが,現代においてしがらみから解き放たれる方法だと感じるからだ.

Tokyo Design Labにおいて見られる「本質の追求」「コラボレーションの模索」「デザインの再構築」が,利潤を追求する企業体においてあまり多くは見られないという感想がある一方で,
企業が実現しているような経済的自律を,研究機関が成し遂げるためにはいくつかステップがありそうだ.

ひとつの活動主体のなかに,DesignとScience, Engineeringのコラボレーションがインストールされていることを望む考え方の延長線上に,ResearchとEconomyのコラボレーションがあると感じる.
そのための鍵は,他者の立場における視点を細かく把握してみる心の理論がありそうだ.

表題にあげた「未来をデザインすること,そのためのサイエンス」というのは,デザイナーに視点をとったときの考え方であるが,違う立場をとれば違う考え方になる.

クリエイティビティーのコンパス(*)を思い返しながら,あらゆる立場の考え方をシミュレーションしていきたいと思う.

 

(*)・・・Art, Science, Design, Engineeringはそれぞれが異なる方向を向いているが地続きになっているという考え方.もともとは”Cycle of Creativity (創造性の循環)”という主題で発表されたが,Joi Ito氏によってコンパスと呼ばれている.

参照リンク
Tokyo Design Labホームページ:https://www.designlab.ac/
Tokyo Design Lab Facebookページ:https://www.facebook.com/RCA.IIS.TokyoDesignLab/


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