
エンパワースタジオを訪れる機会を得た.
エンパワー(empower):力を与えるという意味の動詞.
筑波大学の並木道を歩くと,大きな存在感を突如として脇に感じることになった.
“EMP”と大きな文字が.
このスタジオこそが,筑波大学グローバル教育院,エンパワーメント情報学プログラムの拠点だ.
エンパワーメント情報学は,「人の機能を補完し、人とともに協調し、人の機能を拡張する情報学」だという.
その学問を学ぶためのプログラムというわけだ.
メディアや周囲からその噂をなんども耳にしていた私は,この施設が公にオープンされる機会を知って突然のアポをとった.
当日はプログラムの入試生向け説明ガイダンスを午後に控えているが,午前中にも関わらず急なお願いにご対応いただいたEMP担当教員である知能機能システム専攻人工知能研究室助教の廣川先生には、感謝してもしきれない.
巨人に擬態する機械を現実に目にしたのはこれが初めてだった。
まず目に飛び込んできたのは,
身長何倍もの巨人視点を体験できる「BigRobot Mk.1」.
この装置は想像するに目玉のひとつだろう.なんといっても,大きさが半端じゃない.
感嘆の息を吐く.
さらに中に通される.さあ,未知の世界の始まりだ.
研究室の建屋へ入ると,数々の研究結果が掲示されていた.
さきほどの動画で説明があったとおり,じつに様々な分野の研究がこの中で行われているようだ.
なかには,脳科学に基づく基礎的な研究もあった.
エンパワーメント情報学プログラムは数年前に文部科学省の博士課程教育リーディング大学院に採択され,中間評価最高峰のS評価を得たという.
そのひとつの理由は,研究環境の設計が美しいのもあるだろう.
このように学生が自由に使えるセミナールームも完備している.
じきに助成金の期間は終了するが,その後も学位プログラムとして存続する.
そんな話をきいたあと,もうひとつの目玉を紹介していただいた.
それがVRであることを忘れさせる部屋
「Large Space」と名付けられた,幅25m、奥行15m、高さ7.8mの巨大な直方体の空間を有する、世界最大のVRシステムだ.
2~3m四方のVRルームは目にする機会が多いが,このオーダーの広さは初めてだった.
他の施設を完全に突き離しての1位といったところだろう.
そして,研究者の方がつくったシーンも体験させていただいた.
正直行って,これがVRのベストのひとつの道だと感じさせられた.
たとえば,ヘッドマウントディスプレイをつけても,Hololensをつけても,「つけている」感覚が消えることはない.
このシステムは,VR環境を外側につくりだすことで,体の違和感を極限まで減らしている.
そして自立する研究者の卵たち
Large Spaceを出ると,エンパワーメント情報学プログラムの博士学生が話しかけてくれた.
彼はプリズムで新しい光彩をつくりだす魔術師だ.
彼の話を聞いていると,このプログラムが「社会実装をゴールとしている」強い意思を感じる.
すでに3世代が卒業し,企業の研究者や,オリジナル製品の起業家などになっているという.
みなさんが「オリジナル製品」と聞いて思い浮かべるのはどういうタイプの製品だろうか?
彼らがつくりだすものは,想像の領域を超えているのではないだろうか.
私が思うに,それはこの現場では「想像をつくりだす」ところからスタートしているからだ.
そののち,「想像を形に」しているのだ.
でなければ,どうしてこんなにユニークな物ができるのか.
想像を作り出す,その上で想像に形を与える.科学を愛し,技術にコミットする.
それが実行されている最高峰の現場を見させていただいた.